エッセイ 『アダム・スミスのすばらしい世界』

 NO.8  『アダム・スミスのすばらしい世界』
 R.L.ハイルブローナー 著

 18世紀のイギリス、そこは残酷かつでたらめな無秩序な世界だった。その中から偉大な市場の運動法則を見出した人物がいる。そう、彼の名は『国富論』の著者であり「見えざる手」で知られるアダム・スミスである。

 彼は他の偉人たちと同様に奇行が大変多かったようだが、それに劣らず社会に対する洞察力もやはり素晴しいものを持っていた。その洞察力の凄まじさを窺えるのが著書の『国富論』であろう。18世紀の状況が手に取るようにわかるこの本の中で、彼は市場メカニズムについて一層深い考察を加えている。

 社会を結合させるメカニズム、つまり、万人が慌ただしく私利を追求している社会がどうして存続可能なのかということに彼は興味を持っていた。こうした興味から導き出された答えが「見えざる手」であり、これによって私利の追求と競争が社会的調和を導くという一見矛盾しそうな結果を説いたのだ。個々人が合理的に行動した結果、競争が生じ社会余剰が最大化する状態に収まる。そして、その機能を十分に発揮させるためにも完全に自由な制度を整備する必要がある。今となっては、このような考え方は経済学を少しでも学んでいれば当然のように聞こえるかもしれない。しかしながら、当時を想像して考えてみると彼の洞察力はやはり驚嘆に値するものである。

 彼は自らの生きる時代を百科全書的な視野と知識を駆使して正確に分析し描写した。200年以上も後の現代でさえ彼の考えた市場メカニズムが経済学の基礎となっているのだ。これ以上に彼の鋭い分析を証明するものは無いであろう。

+ 追記 +
 新しい視点で世の中を描写する人間は往々にして誤解されることが多い。彼の場合、『国富論』における新興企業家たち解釈が彼の主意とは異なったニュアンスで捉えられてしまった。そのため、彼が否定的に見ている産業家の行動の理論的根拠として利用されるという皮肉に直面することになる。これはマルクスにも当てはめられるのだが、このようなことは歴史的にままあることなのだろうか。今後注意して見ていきたい現象である。
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by jokerish2 | 2005-05-22 23:59 | エッセイ(課題)
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