歴史 『悪名高き皇帝たち(一)』

歴史 No.39 『悪名高き皇帝たち(一)』 塩野 七生 著

 本巻は帝政を築き上げたアウグストゥスに続くローマ皇帝ティベリウスの治世について描かれている。彼は人々から嫌われ、カプリでの政務に至っては非難を浴びる。それでも元老院からは神格化を提案されるなど、統治者としての資質は事欠かなかったようである。また、彼の業績を讃え、彼に捧げる神殿を建てたいとの提案に対して、彼が断った際の言葉は彼の政治や生き方に対するスタンスをよく表しているので紹介したい。

 「わたし自身は、死すべき運命にあたる人間の1人にすぎない。そのわたしが成す仕事もまた、人間にできる仕事である。あなた方がわたしに与えた高い地位に恥じないように努めるだけでも、すでに大変な激務になる。
 この私を後世はどのように裁くであろうか。私の成したことが、我が先祖の名に恥じなかったか、あなた方元老院議員の立場を守るに役立ったか、帝国の平和の維持に貢献できたか、そして国益のためならば不評にさえも負けないで成したことも、評価してくれるであろうか。
 もしも評価されるのであれば、それこそがわたしにとっての神殿である。それこそが、最も美しく永遠に人々の心に残る彫像である。他のことは、それが大理石に彫られたものであっても、もしも後世の人々の評価が悪ければ、墓所を建てるよりも意味のない記念物にすぎなくなる。わたしの望みは、神々がこのわたしに生命のある限り、精神の平静とともに、人間の法を理解する能力を与えつづけてくれることのみである。」

 人事の才にも秀でていたといわれるティベリウスだけあって、さまざまな対象に配慮し、自らの立ち位置を考慮した素晴しい言葉であると思う。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:31 | 本:歴史・ノンフィクション
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