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歴史 『危機と克服(上)』

歴史 No.43 『危機と克服(上)』 塩野 七生 著

 失政を重ねローマ帝国に混乱をもたらした最後のユリウス・クラウディウス朝の皇帝ネロがその人生に終止符を打った翌年、ローマ帝国にはガルバ、オトー、ヴィテリウスという三人の皇帝が現れては消えていった。彼ら三皇帝は統治力のなさ故、短期間で破滅し、ローマ帝国の内戦を引き起こしてしまう。

 さて、この三皇帝の統治を顧みると、著者も言うようにやるべきことをせずにやるべきでないことばかりを行っている。そう考えると、カリグラやネロの方がまだましだったのではないかと思わざるを得ない。どちらにせよ、この三皇帝に明らかに欠如していたのは人心掌握の策ではないかと思う。元老院やローマ市民、軍の心を掴まなければ政治などできたものではない。ローマ帝国での皇帝は承認されて初めて成立するのであるから当然と言えば当然であるが、当の三皇帝はこの感覚が欠如していたようである。これでは皇帝が勤まるはずもない。この絶望を救うのはいったい誰になるのか、次巻が楽しみである。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:38 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『危機と克服(中)』

歴史 No.44 『危機と克服(中)』 塩野 七生 著

 ガルバ、オトー、ヴィテリウスの三皇帝が倒れた後、次なるローマ皇帝に抜擢されたのはヴェスパシアヌスであった。三皇帝による内乱と同時期に起こっていた西方のゲルマン系ガリア人の反乱と東方のユダヤ人の反乱を解決することが彼に課せられた最初の問題であったが、息子のティトゥスや協力者ムキアヌスに助けられ解決してゆく。時代が必要としていた健全な常識を持ち合わせた皇帝ヴェスパシアヌスは混乱のローマ帝国を救う救世主となった。

 さて、ヴェスパシアヌスの治世を概観して思うのだが、相変わらず善政を行う皇帝の下には優秀な協力者がいるということだ。これは皇帝の人選眼の善さに尽きると思う。よき右腕を見つける才能も成功への1つの要素と言えるのだろう。確かに日常生活に当てはめてみても、うまくいっている組織のトップの下には優秀なブレーンがいる。つまるところ、人選眼という能力は皇帝であるために欠かせない能力の中でも上位にくるものなのだろう。

 印象に残った一節。

 「民主制を守るために全員平等を貫くしかなかったギリシアの都市国家アテネが、意外にも、他のポリス出身者や奴隷に対して閉鎖社会であったという史実。そして、共和制時代には元老院主導という形での寡頭制、帝政時代に入ると君主制に変わるローマのほうが、格段に開放社会であったという史実は、現代でもなお一考に価すると確信する。」
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:38 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『悪名高き皇帝たち(四)』

歴史 No.42 『悪名高き皇帝たち(四)』 塩野 七生 著

 4代目皇帝クラウディウスは妻であるアグリッピーナの野望の犠牲となり死亡した。そして、その後を継いだのが養子であった当時16歳のネロであった。誰からも歓迎された5代目皇帝ネロであったが失政に失政を重ね、終には「国家の敵」と断罪され、彼の人生とともにカエサルやアウグストゥスが築き上げた「ユリウス・クラウディウス朝」にも終止符を打つことになった。

 さて、ネロと言えば悪名高き皇帝たちの中で最も耳にする名前のように思う。しかし、彼の治世を概観するかぎりティベリウスやクラウディウスの治世の方が印象的であるし、重要な役割を担っていたようである。しかしながら、よく名を聞くのはネロである。何故か。それは彼がキリスト教徒の弾圧を行ったからではなかろうか。いや、そうであろう。現代にまでキリスト教が続いていなかったならば、彼の行った弾圧に対して歴史は見向きもしなかったといっても過言ではないかもしれない。歴史というものはバイアスなしに見ることができないという性質がつきまとう。それを考慮してネロを見ると、なんとも可哀相である。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:35 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『悪名高き皇帝たち(三)』

歴史 No.41 『悪名高き皇帝たち(三)』 塩野 七生 著

 若き皇帝カリグラの後を継いだ四代目皇帝は50歳まで歴史家として生きてきたクラウディウスであった。彼にはカリグラの愚政によって失われた人々の信頼を回復し、内政、外政ともに山積する問題を解決することが課せられた。彼はゆっくりではあるが、一歩一歩着実に問題を解決してゆく。悪妻と言う慢性的な問題を抱えつつも。

 さて、彼の治世を概観すると、統治をする人間にとって歴史を知っていることの重要性を見せ付けられる。特に長髪のガリア人たちに元老院の議席を与えるか否かを議論した際の彼の論は、ローマがここまで繁栄してきた本質を押さえたものであり、歴史を知らない者には到底辿りつかない結論に導く。もちろん歴史偏重では意味がなく、現状を踏まえた上での歴史の応用が重要になってくるのは言うまでもない。その力も彼には備わっていたようだ。彼の統治は、歴史からある一定の法則や本質を見抜いておくことが今を生きる私たちにとって重要な意味を持つということを再確認させてくれるものであることは間違いないだろう。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:34 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『悪名高き皇帝たち(二)』

歴史 No.40 『悪名高き皇帝たち(二)』 塩野 七生 著

 本巻は二代目皇帝ティベリウスの後を継いだカリグラの治世を描いている。彼は何にも抗されることなく、万人に歓迎されて即位した初めての皇帝だった。その人気を失うことを恐れたためか、彼の行う政治は言わば人気取りの政治であり、ティベリウスが築き上げた財源はいとも容易く消費された。人気取りには才を発揮したカリグラも愚政が仇となり無残な最期を迎えることになる。

 「普遍とは、それを押し付けるよりも特殊を許容してこそ実現できるものである。」

 人気取りに従事したカリグラの治世で印象に残ったことは、正直少ない。しかし、ユダヤの統治に関して上記の一節は参考になったので紹介する。この一節は、カリグラがユダヤ統治を上手く行ったために生まれた教訓ではなく、失敗したがために生まれた教訓である。これまでに登場したローマの指導者たちは皆、このバランス感覚が優れていたように感じる。しかし、カリグラは違った。そこが彼に愚政を行わせた原因であったのではないかと思う。ローマ人たちは今回の経験を活かして、統治能力を持ち合わせた指導者を見つけることができるのかが、この先ローマの存続の鍵を握っていくのだろう。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:33 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『悪名高き皇帝たち(一)』

歴史 No.39 『悪名高き皇帝たち(一)』 塩野 七生 著

 本巻は帝政を築き上げたアウグストゥスに続くローマ皇帝ティベリウスの治世について描かれている。彼は人々から嫌われ、カプリでの政務に至っては非難を浴びる。それでも元老院からは神格化を提案されるなど、統治者としての資質は事欠かなかったようである。また、彼の業績を讃え、彼に捧げる神殿を建てたいとの提案に対して、彼が断った際の言葉は彼の政治や生き方に対するスタンスをよく表しているので紹介したい。

 「わたし自身は、死すべき運命にあたる人間の1人にすぎない。そのわたしが成す仕事もまた、人間にできる仕事である。あなた方がわたしに与えた高い地位に恥じないように努めるだけでも、すでに大変な激務になる。
 この私を後世はどのように裁くであろうか。私の成したことが、我が先祖の名に恥じなかったか、あなた方元老院議員の立場を守るに役立ったか、帝国の平和の維持に貢献できたか、そして国益のためならば不評にさえも負けないで成したことも、評価してくれるであろうか。
 もしも評価されるのであれば、それこそがわたしにとっての神殿である。それこそが、最も美しく永遠に人々の心に残る彫像である。他のことは、それが大理石に彫られたものであっても、もしも後世の人々の評価が悪ければ、墓所を建てるよりも意味のない記念物にすぎなくなる。わたしの望みは、神々がこのわたしに生命のある限り、精神の平静とともに、人間の法を理解する能力を与えつづけてくれることのみである。」

 人事の才にも秀でていたといわれるティベリウスだけあって、さまざまな対象に配慮し、自らの立ち位置を考慮した素晴しい言葉であると思う。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:31 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『パクス・ロマーナ(下)』

歴史 No.38 『パクス・ロマーナ(下)』 塩野 七生 著

 パクス・ロマーナが成立し、アウグストゥスの帝政がほぼ完成した今、残された課題は後継者を誰にするかの選択であった。彼が後継者として選んだ息子たちはいずれも若くして命を落としてしまう。さらに生き残ったティベリウスも引退している始末。カエサルとアウグストゥスが基礎を構築した帝政ローマは果たしてローマに根付くのだろうか。

 結局アウグストゥスは70代後半まで生きた。晩年になってティベリウスが復帰するまではアグリッパとマエケナスの死後はほとんど一人で政治という日々のプレッシャーの中で生き抜いた。小林秀雄によれば「政治とはある職業でもなくある技術でもなく、高度な緊張を要する生活」であるという。この状態を生き抜くのに必要な資質は認識力であり、持続力であり、適度な楽観性であり、バランス感覚。確かに彼の治世はこの四つの資質を必要とした治世であったように思う。少し楽観性が足りなかった感は否めないが、それでもバランスの取れた力を持っていたようだ。まだ17歳だったオクタヴィアヌスを見てこの資質を見抜いたカエサルはただならぬ人物であるといわざるを得ない。この力こそがアウグストゥスがカエサルに劣る最大の欠点であろう。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:30 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『パクス・ロマーナ(中)』

歴史 No.37 『パクス・ロマーナ(中)』 塩野 七生 著

 上巻に引き続き、アウグストゥスの政治は巧妙を極めた。決して「帝政」という言葉を口にすることなく、以後のローマに帝政を既成事実に持っていくそのやり方は実に上手い。市民や元老院の支持を背景に同胞アグリッパ、マエケナスとともにパクス・ロマーナの基礎は形作られてゆく。

 著者も言うように、カエサルに比べるとアウグストゥスの治世には迫力が欠ける。それはローマが平和であるからこそであり、仕方のない部分ではあるがやはり物足りなさを感じざるを得ない。しかしながら、派手な戦がない分、彼の治世には政治が目立つのも事実である。中でも私が気になったのが軍事の再編成をする際の彼の洞察力であり、職業に勤務年限制度がなかった時代に彼はそれを定めた点である。給料と退職金とのバランスを考えた勤務年限は、現代の専門的な職業に従事する人々に示唆する部分が多分に含まれている。
 
 また、カエサル同様、彼も一つのことを一つの目的ではやらない人物であり、マキャベリの「如何なる事業も、それに参加する全員が、内容はそれぞれちがったとしても、いずれも自分にとって利益になると納得しないかぎり成功できないし、その成功を永続させることもできない」という言葉も、カエサルとアウグストゥスの政治を上手く形容しているように思う。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:29 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『パクス・ロマーナ(上)』

歴史 No.36 『パクス・ロマーナ(上)』 塩野 七生 著

 アントニウスを追いやりローマに平和が訪れた。オクタヴィアヌスはカエサルの意思を受け継ぎ帝政を目指すかのように見えた矢先、彼は共和制への復帰を宣言した。それに狂喜した元老院はオクタヴィアヌスにアウグストゥスの尊称を贈るなど彼に多くの名誉を与えた。しかし、これはアウグストゥスが帝政を成し遂げるための布石であったのだ。王政を連想させる上辺の職名は返上し、事実上帝政を成し遂げるために必要な力を徐々に手中に収めていく様は巧妙と言わざるを得ない。さすが、天才カエサルが見込んだだけのことはある。
 さて、ここで感じることは、使える時間が多いというのは政治を行うにあたって大きな武器になると言うことである。内政に着手し始めた年齢が50代であったカエサルと異なりアウグストゥスは40代であり、時間をかけて帝政へと導くことができた。それも帝政を目論んでいると気付かれないように。カエサルの不幸から得られる教訓として、急ぐあまりに強行になりすぎることは自らの首を絞めることになりうると言うことだろう。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:28 | 本:歴史・ノンフィクション

歴史 『ユリウス・カエサル ルビコン以後(下)』

歴史 No.35 『ユリウス・カエサル ルビコン以後(下)』 塩野 七生 著

 「人間ならば誰にでも、すべてが見えるわけではない。多くの人は、自分が見たいと欲する現実しか見ていない。」ユリウス・カエサルはそんな十四人に殺された。

 彼の暗殺後、彼の遺言書に記された後継者は若き少年オクタヴィアヌスだった。カエサルが指名した人物だけあってオクタヴィアヌスの政治力は優れ、相棒アグリッパとの二人三脚でカエサルの残した壮大な構想は一つ一つ着実に受け継がれてゆく。

 本巻で注目すべきはやはりオクタヴィアヌスの巧妙な政治であろう。特にアントニウスに対する彼の洞察力見物であった。軍事力を背景に力を持っていたアントニウスに対し三頭政治を画策し相対的な力関係を弱めていくのはもちろん、アントニウスの行動一つ一つを反ローマな行為であると世論をうまく誘導し、結果的に彼の独り舞台へと持っていく様は見事であった。追いやられたアントニウスに政治の素質がなかったのも事実ではあるが、アントニウスの行動を所与の条件として状況を改善していくオクタヴィアヌスの能力は卓越していた。カエサルの意思を継いだオクタヴィアヌスは戦いの終わったローマを今後どう導いていくのだろうか気になるところである。
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by jokerish2 | 2006-08-09 22:27 | 本:歴史・ノンフィクション