エッセイ 『マルクスの描き出した冷酷な体制』

 エッセイ NO.7 『マルクスの描き出した冷酷な体制』
 R.L.ハイルブローナー 著

 「マルクスは現実の社会主義の建設者ではなかった」この一文はカール・マルクスという人物を語る上で非常に重要なものである。世間一般に認識されているマルクスは社会主義の立役者でありそれを過大に主張した急進的かつ過激な学者というものであろう。私もそのように認識していた。しかしながら本章を読み進めると、一般的なマルクス像は虚像であり、彼の思想を全くと言っていいほど表現できていないことに気づいた。

 では、彼は社会主義者たちのバイブルとなった『資本論』の中で何を主張しようとしたのだろうか。それは「共産主義の創造」ではなく「資本主義の崩壊」であった。資本主義の欠陥を緻密な論理を組み立てて指摘し、その行く末に待ち構えているものは崩壊以外の何物でもないことを主張していたのだ。つまり、社会システムの理想が共産主義であると主張していたのではなく、資本主義の代替システムとして共産主義思想を描き出していたのだ。

 しかし、彼の冷徹な分析は論理的で完璧であるように見えるが、見逃してはならないところもある。それは彼の資本主義に対する否定的な姿勢である。彼は資本主義システムの中で苦しむ現実の世界を目の当たりにしていた。そのため、彼は資本主義の欠陥を説明するために現実を捉えきれていない理論的に完璧なモデルを用いてしまったのだろう。従って、完璧な資本主義モデルでは彼の言うように崩壊は不可避であったかもしれないが、実現することはなかったのだ。

 以上からわかるように、彼は過激な革命家ではなかった。むしろ資本主義の理論上の欠陥を指摘し、より良い社会システムを提案した冷静な経済学者であったと言える。ただ、時代が時代だったために、彼の思想は誤認され過激な社会主義の立役者にまでされてしまったのだ。全く不運な人物である。

 彼の思想を読み解くことが共産主義の理解よりも、資本主義の理解につながるとは世間の考えと比べ逆説的であるのがおもしろい。
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by jokerish2 | 2005-05-15 12:51 | エッセイ(課題)
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